『ジュラシックワールド/復活の大地』 2025年8月8日(金) 日本公開ですが、『新たなる支配者』から続くシリーズはクリスプラットではなく、スカーレット・ヨハンソン、マハーシャラ・アリ、ジョナサン・ベイリーにキャストが変更。脚本は『ジュラシック・パーク』『ロスト・ワールド』のデヴィッド・コープが28年ぶりのカムバックを果たしています。今回は、過去作で恐竜を見世物にしてこようとした企業をまとめておきます。観る前にまず復習です。
復活の大地は全く異なる新章です。企業群はどのように描かれるのでしょうか?
恐竜復活企業 ジュラシックパークシリーズに見る巨大企業の野望と挫折
1993年に公開された『ジュラシックパーク』から2022年の『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』まで、約30年にわたって描かれてきたこのシリーズは、単なる恐竜映画の枠を超え、現代社会の企業倫理や科学技術の在り方を問い続けています。
その物語の背後には、常に巨大企業の存在があります。恐竜復活という人類史上最大の科学的偉業を成し遂げながらも、欲望と野心に駆られて破滅への道を歩む企業。シリーズを通じて描かれた主要企業の軌跡を辿り紐解いていきましょう。
ジュラシックシリーズ 企業登場年表
詳細説明前に、どの企業がどの回に出てくるかをわかりやすくしました。ジュラシックシリーズの時代設定についてですが、基本的に「未来の話」ではなく現代設定で、各映画とも公開年と同時代を舞台にしています。SFというより「現代に恐竜が蘇ったら?」というコンセプトですね。なので、1993年公開『ジュラシック・パーク』→ 1993年の現代が舞台となります。
InGen インジェン社 全ての始まりを告げた先駆者企業
物語の出発点となるのが、International Genetic Technologies、通称InGen(インジェン)です。この企業は、古生物学者ジョン・ハモンドによって設立され、恐竜のDNA復活技術を世界で初めて実用化した革命的な企業でした。1980年代後半から1990年代初頭にかけて、コスタリカ沖のイスラ・ヌブラル島とイスラ・ソルナ島において、極秘の恐竜復活プロジェクトを進行させていました。
ハモンドの理念は純粋で、子どもたちに本物の恐竜を見せ、教育と娯楽を融合させた究極のテーマパークを創造する。しかし、企業としてのInGenは、科学的倫理と安全性を軽視した側面が目立ちました。遺伝子操作による恐竜の「改良」、不十分な安全対策、そして何より、生命を商品として扱う姿勢が、後の悲劇を招く要因となりました。
1993年の島での惨劇により、InGenは事実上破綻しました。しかし、その技術と資産は完全に消失することなく、後続の企業によって受け継がれることになります。InGenの遺産は、希望と絶望の両面を持つパンドラの箱として、シリーズ全体を通じて影響を与え続けているのです。
Masrani Global マスラニグローバル社 商業主義が生んだ新たな巨人
InGenの破綻から約20年後、恐竜事業は新たな局面を迎えます。インド系実業家サイモン・マスラニが率いるMasrani Global Corporationが、InGenの資産を買収し、ジュラシック・ワールドプロジェクトを始動させたのです。2005年の開園以来、10年間で1億5千万人以上の来園者を迎える世界最大のテーマパークとして成功を収めました。
Masrani Globalの特徴は徹底した商業主義。恐竜を単なる観光資源として位置づけ、来園者の満足度向上と収益拡大に専念しました。新種恐竜の創造、アトラクションの多様化、マーケティング戦略の洗練など、エンターテインメント企業としての手腕は見事でしたが、この商業的成功こそが、企業の致命的な盲点となりました。
より刺激的な体験を求める来園者のニーズに応えるため、InGen時代以上に危険な遺伝子操作を行い、制御不可能な新種恐竜「インドミナス・レックス」を創造してしまったのです。2015年の第二次ジュラシック・ワールド事件により、Masrani Globalもまた破綻の道を歩むことになりました。
Biosyn Genetics バイオシンジェネティクス社 影に潜む野心家の台頭
シリーズ最新作で重要な役割を果たすのが、Biosyn Genetics(バイオシン・ジェネティクス)です。実は、この企業はシリーズ初期から存在していた、InGenの競合企業でした。創設者ルイス・ドジスンは、産業スパイを使ってInGenの技術を盗もうと画策していた人物として描かれていました。
長年にわたって恐竜関連技術の獲得を狙っていたBiosynは、InGenとMasrani Globalの相次ぐ破綻を千載一遇のチャンスと捉えました。現在のCEOルイス・ドジスンの指揮の下、恐竜の軍事利用という新たな事業領域に進出し、世界各国の政府や軍事組織との取引を拡大させています。
Biosynの恐ろしさは、過去の企業が持っていた教育的理念や娯楽的側面を完全に排除し、純粋に恐竜を兵器として位置づけている点にあります。彼らにとって恐竜は、感動や驚きを与える存在ではなく、戦争と支配のための道具でしかないのです。
その他の関連組織と企業群
シリーズには、主要3社以外にも重要な組織が登場します。恐竜保護団体(DPG:Dinosaur Protection Group)は、商業利用に反対する非営利組織として活動しています。また、各国政府の恐竜対策部門、軍事組織、さらには恐竜の密猟や違法取引に関わる闇組織まで、恐竜をめぐる利害関係者は多岐にわたります。
これらの組織の存在は、恐竜復活技術が単一企業の専有物から、国際的な争点へと発展していることを示しています。恐竜は今や、経済、政治、軍事、環境保護といった多角的な視点から論じられる存在となっているのです。
ジュラシックシリーズの企業史を振り返ると、共通する教訓が見えてきます。革新的な技術を手にした企業が、利益追求や野心に駆られて倫理的な境界線を越えてしまう危険性です。InGenの科学的傲慢さ、Masrani Globalの商業主義、Biosynの軍事利用への執着。それぞれ異なるアプローチを取りながらも、最終的には制御不可能な事態を招いてしまう構造は、現実世界の企業活動に対する警鐘として響きます。
シリーズが描く企業群の興亡は、単なるフィクションではありません。人工知能、遺伝子工学、バイオテクノロジーなど、現代社会を変革する技術を扱う実在の企業にとって、重要な示唆を含んでいるのです。技術の進歩と企業の成長は、常に社会的責任と倫理的配慮とのバランスの上に成り立っています。
単なる恐竜映画、パニック映画という側面だけではなく技術と倫理的な観点でもみていくとおもしろいですね。